Netflixの加入者が2億人を突破し、Amazonプライム・ビデオの再生時間は前年比70%増を記録するなど、過去1年でストリーミングサービスが急成長したことに伴い、ストリーミング広告の人気も急上昇しています。しかし、デジタル広告のメリットである「高いターゲティング精度」や「効果測定の容易さ」といった点はストリーミング広告において、大きな課題があることが徐々に明らかになっています。
Hulu, Discovery+, Peacock: Streaming Ads Are a Confusing $11 Billion Business – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-05-04/hulu-discovery-peacock-streaming-ads-are-a-confusing-11-billion-business
ストリーミングサービスの需要の高まりを受けて、近年、アメリカではテレビ放送局が次々にストリーミングサービスの提供を開始しています。
ブランド側や広告主は、NBCユニバーサルのストリーミングサービス「ピーコック」やディスカバリーチャンネルのストリーミングサービス「Discovery+」といったストリーミングアプリから直接広告枠を購入できるほか、Samsungなどのテレビメーカー、あるいはサードパーティーのプラットフォーム経由で広告枠を購入可能です。しかし、記事作成時点ではそれぞれのサービスが独自の方法で効果測定を行っており、これまでニールセンがテレビの視聴率を計測していたような、包括的な測定は実現していないのが現状です。
ニールセンはテレビ視聴率指標を見直し、インターネットの視聴データを統合した新たな評価指標の開始を計画していますが、完全移行は2024年以降になるとみられています。つまり、それまでは各サービスで断片化している情報を、ブランドや広告主が何とかしてつなぎあわせなければならないわけです。
業界コンサルタントのBrad Adgate氏は、この状況について「MTVのCMにお金を支払う価値があるのかわからないままに広告主がCMを購入していたケーブルテレビの初期を思い出させる」と述べています。
効果測定の困難さという課題があるにもかかわらず、多くの企業がストリーミングCMを検討しているのは、従来のテレビCMにはないメリットが存在するため。また、ストリーミングサービスの視聴者数がテレビネットワークの視聴者数に並びつつあることも理由です。

前者としてはまず、ストリーミングサービスにおけるCMは、従来のCMより数が少ないという点が挙げられます。例えばDiscovery+やピーコックは表示するCMを1時間あたり5分以内と定めています。これは、アメリカのケーブルテレビの半分以下の時間とのこと。加えて、「ユーザーが動画を停止した時に表示されるCM」など、新しい種類の広告もスタートしており、全体として「ユーザーが嫌悪感を感じにくい仕組み」となっています。
また従来のテレビCMに比べて、ストリーミングCMはターゲティングが容易であることもポイント。Discoveryの広告販売担当であるJon Steinlauf氏によると、「12歳以下の子どもが2人いる年収10万ドル(約1100万円)の女性」をピンポイントでターゲットにすることや、配信している番組内で「ヨーグルト」という発言があった後にヨーグルトのCMを流すことも可能とのこと。このような特徴を持つことから、Discovery+の広告枠の価格は、同社が保有する有料テレビチャンネル「HGTV」や「TLC」の3倍になると伝えられています。
加えて、2021年秋までに18~49歳という年齢層におけるピーコックの視聴者数はアメリカの三大テレビネットワークの1つであるNBCと並ぶと予測されています。視聴者数の大きな成長もブランドや広告主にとっての魅力です。
ただし、ストリーミングCMには課題も多く存在します。

例えば従来のテレビでは広告主側がCMが流された正確な時間や放送中の番組を知ることができましたが、ストリーミングプラットフォームの場合、「コンテンツがスポーツ番組だったかライフスタイル番組だったか」といったおおまかなカテゴリや、CMが流された合計回数しか情報を開示していないところもあります。広告主が知りたい「特定の世帯に何回表示されたか」といった情報や、「問題のある番組の途中でCMが流されたか」といった情報が開示されないという点は、大きなデメリットとなっています。
また、デジタル広告においてターゲティング精度の高さはGoogleやFacebookが有名ですが、ストリーミング広告の場合、これらと同等の精度は期待できないとのこと。もちろん、ストリーミングサービスを運営する企業側はターゲティング精度の向上を目指していますが、記事作成時点で実現できていないというのが実情のようです。
そして、自動化された広告配信システムを利用していると、プラットフォームにおいてストリーミングCMを利用する広告主が少ないときや、「特定の視聴者に短期間でリーチしたい」というマーケター側からのリクエストがあった時に、短い期間内で同じCMが繰り返し流される結果になってしまうという問題もあります。
アメリカ・コロラド州のレイクウッドに住むベン・チャペル氏は、ストリーミングサービスのHuluでドラマ「X-ファイル」を一気見している時に、スポーツくじのアプリの同じ広告ばかりが流れていることに気づきました。Huluは、ユーザーが同じ広告を見るのは「1時間に2回まで」もしくは「週25回まで」と制限を定めていますが、広告枠がサードパーティー経由で販売された時には、この制限を超えることがあるとのこと。何度も何度も繰り返し同じ広告を見せられたチャペル氏は「さすがにやり過ぎだ」と感じたそうです。

「繰り返し同じCMが表示されている」という視聴者側の感覚は、広告が印象的だったときに持たれることが多いため、場合によってはCMの成功といえることもあります。しかし、視聴者が嫌悪感を感じたり、「やり過ぎだ」という苦情を訴えたりと、ネガティブな印象を持たれることがあるのも事実です。
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