なぜユーザーを追跡するターゲティング広告がジャーナリズムやパブリッシャーに悪影響を及ぼすのか?

サードパーティーCookieを使ってインターネットユーザーの行動を広範に追跡する行動ターゲティング広告は、近年、ユーザーのプライバシーを侵害すると非難を浴びています。しかし、行動ターゲティング広告はユーザーだけでなく、コンテンツを公開するウェブサイトやパブリッシャーにとっても有害とのこと。ユーザーのプライバシーを保護しながら広告収入を得るための開発者向け広告ネットワーク「EthicalAds」のデイビッド・フィッシャー氏が、「広告ターゲティングがどのようにジャーナリズムや高品質なパブリッシャーに対して害を与えるのか」をつづっています。

How Invasive Ad Targeting is Bad for Journalism and Other High-Quality Publishers – EthicalAds
https://www.ethicalads.io/blog/2021/05/how-invasive-ad-targeting-is-bad-for-journalism-and-other-high-quality-publishers/

インターネット上の広告はもともと、ウェブサイト上の言語・テキスト・リンク構造などを解析し、そのテーマやコンテンツとマッチした広告を表示するという「コンテンツターゲット広告」が主流でした。コンテンツターゲット広告の場合、広告主は自分の製品とマッチするウェブサイトにお金を払って広告を掲載してもらうという方法を取っていました。しかし、技術の進歩とともに、ウェブサイトの内容とは関係なく、ユーザーの行動を追跡してその興味・関心にマッチする広告を表示するという「行動ターゲティング広告」が増加。広告主は広告を表示したいウェブサイトではなく、ユーザーデータを持つ広告技術会社に対してお金を払って広告を表示させる形になりました。

コンテンツターゲット広告の場合、ウェブサイトは広告を表示するため、コンテンツ自体をしっかり作る必要があります。しかし、行動ターゲティング広告はウェブサイトの内容と広告表示の間に関係がなくなるため、内容ではなく「とにかく多くのユーザーをアクセスさせること」に重点を置いた低品質なウェブサイトの増加を促しました。

行動ターゲティング広告を利用すると、例えば広告主が「猫愛好家にリーチする広告」を表示させたい場合、最初の段階ではターゲットユーザーがよく訪れる「ModernCat.com」に広告費が集中的に支払われます。しかし、その後、広告技術会社がユーザーの行動を把握すると、その他の低品質のウェブサイトに対しても広告費が支払われることになり、「ModernCat.com」へ支払われる広告費が少なくなります。

行動ターゲティング広告が増加した結果、近年は広告費の流れる先が「知識豊富な著者によって書かれた研究コンテンツを含むウェブサイト」ではなく、「有料広告のインプレッションを最大化させることだけを目的に、再利用された資料を集めた低品質のSEO最適化サイト」に移行しました。調査報道を行う代わりに扇情的なタイトルを付けて閲覧者数を増やすクリックベイトを行った方が、経済的に有利に働くためです。

高品質なコンテンツを提供する大規模なウェブサイト運営者がオーディエンスを取り戻し、収益を上げるためには、「サードパーティーCookieやフィンガープリントといった広告監視技術の排除」と「追跡を行う広告会社に対する広告枠の提供停止」が有効だとフィッシャー氏は述べています。この方法は一見するとウェブサイトの収益を減らすように思えます。しかし、インターネット上にウェブサイトは数あれど、質の高いウェブサイトや広告スペースの数は限られているため、実際にニューヨーク・タイムズは広告主と直接連携することで「サードパーティーCookieなしで高効率の行動ターゲティング広告が配信できた」と報告しています

中小規模のウェブサイトにとってニューヨーク・タイムズのように独自で広告ネットワークを構築し、直接広告主と連携するのは難しい問題。この問題を解決するために、フィッシャー氏はユーザーのプライバシーを犠牲にせずウェブサイトの運営側が収益を上げられるようなEthicalAdsネットワークを構築していると述べています。また、「ユーザープライバシーを犠牲にせずオーディエンスを収益化する」方法は他の企業や組織も開発中で、例えばウェブブラウザを開発する「Brave」も新たな収益分配の仕組みを開発しており、広告ゼロの検索エンジン「Neeva」はサブスクリプションによって得られた収益をコンテンツ提供者に分配していくとしています。

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