インターネットにおいてサードパーティーCookieはユーザーの行動を広範に追跡しすぎることから、プライバシーの侵害であると指摘されています。このためGoogleは2022年までにChromeにおいてサードパーティーCookieのサポートを廃止することを発表しており、「Cookieなしの新しい広告システムの構築」を目指しています。既存の広告のあり方と異なる全く新しいシステムとして、Googleはどのような内容を想定しているのかや、進捗・懸念点についてまとめました。
Concerns Mount Over Google’s Privacy Proposals
https://www.adweek.com/programmatic/google-chrome-privacy-sandbox-concerns/
2020年時点でインターネット広告の多くはCookieを利用したターゲティング広告です。しかし、Cookieのうち、表示しているウェブページではなく、それ以外のドメイン名に情報が送られるサードパーティーCookieは、必要以上にユーザーの行動を追跡し個人情報を収集しているとしてプライバシーの観点から問題だと指摘されてきました。
このような流れを受け、Googleは2020年1月、2年以内にGoogle ChromeによるサードパーティーCookieサポートを廃止すると発表しました。
Chromeは2年以内にサードパーティーCookieのサポートを廃止する方針 – GIGAZINE

しかし、前述の通り、既存のインターネット広告はCookieを中心に構成されています。ターゲティング広告はその効率の高さが評価されていますが、サードパーティーCookieが使えないとなると、これまでのようにターゲティング広告で成果を上げられないことも考えられます。実際にCookieをブロックしたウェブサイトで収益が52%下がったことも報告されています。
このためGoogleは、プライバシーを考慮したCookieに変わる新たな広告の仕組み「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」を提案しています。
プライバシーサンドボックスは2019年に初めてGoogleによって提案されたもので、2020年12月時点でもまだ具体的な仕組みは確立されておらず、内容が議論されているところ。ウェブサイトをまたがってユーザーを追跡しない形の広告システムであるプライバシーサンドボックスには、以下のようなAPIを利用することが検討されています。
・トラストAPI:Google版のCAPTCHAのようなもので、ユーザーが人間かロボットかをCookieの代わりに判別します。人間だと証明されたユーザーに匿名で発行される「トラストトークン」を利用すれば、データと個人とを結び付けることなく、ボットベースの不正広告を排除できるとのこと。
・プライバシーバジェットAPI:個人を識別可能になる情報に予算(budget)を与えて、その予算内で情報取得を可能にする仕組み。予算を超えた後はページへのストレージやネットワークの要求を拒否して新しい情報を取得できなくなることなどが考えられます。
・コンバージョンメジャーメントAPI:クロスサイトIDを使用せずに広告のクリックがコンバージョンにつながるタイミングを測定する仕組み。
・FLoC(Federated Learning of Cohorts):ユーザーの興味・関心を知るために個人ではなく、機械学習を利用して集団(コホート)を観察するという方法。
・TURTLEDOVE:広告キャンペーンの展開からリアルタイム入札、広告の表示までをサーバーではなくブラウザで行うことで、プライバシーを保護しつつきめ細かいターゲティングを可能にするもの。

もともと2019年の段階ではユーザーが所属すると推測される一連の関連グループを追跡するPIGIN(Private Interest Groups, Including Noise)というAPIが検討されていましたが、PIGINは取り下げられ、TURTLEDOVEが後継しました。しかしWorldWide Web Consortium(W3C)で、TURTLEDOVEはGoogleの広告システムを優先し、他のアドテクをシャットアウトする可能性があるという批判を受けています。このほかW3CではTURTLEDOVEの目的を維持しつつもそれ以上のパフォーマンスを発揮する「SPARROW:Secure Private Advertising Remotely Run On Webserver」という仕組みの提案もありました。
2020年10月には「プライバシー サンドボックスの進捗状況とプライバシーを重視したウェブの構築について」という記事がGoogleの開発者ブログで公開されました。この中でGoogleは、コンバージョンメジャーメントAPIやトラストトークンがテスト段階にあることも発表しています。
Google Developers Japan: プライバシー サンドボックスの進捗状況とプライバシーを重視したウェブの構築について
https://developers-jp.googleblog.com/2020/10/blog-post_21.html
しかし、2020年が終わりに近づくにつれ、広告業界ではプライバシーサンドボックスに対し懸念を抱く人が増加しているとのこと。Googleの示す内容はいずれも概念的なものであり、実際の広告の運用にどのように影響があり、収益がどう変動するかについて、具体的な内容が一切示されていないためです。
AppleのブラウザであるSafariはサードパーティーCookieを完全にブロックしており、ユーザーの追跡が制限されるためCPMの価値が下がることが報告されています。プライバシーバジェットAPIのようにブラウザがユーザー情報の提供量を制限するという状況ではマーケターが収益を最大化させる方法がわからず、Safariと同様の状況に陥る可能性があると、業界関係者は指摘しています。