「広告で収益を得ること」は有害ではなく多くの人にとって有益だという主張

GoogleはサードパーティーCookieを利用しない新しい広告システムを構築中ですが、電子フロンティア財団Oracleなど、多くの組織・企業がこの新システムを非難しています。Google広告を担当するソフトウェアエンジニアのジェフ・カウフマン氏は、広告の仕事について、周囲の人からネガティブに見られることが多いそうですが、これに対し「広告は有益なものである」という見解を述べています。

Why I Work on Ads
https://www.jefftk.com/p/why-i-work-on-ads

カウフマン氏はよく「なぜ広告に取り組んでいるのか?」と聞かれるそうですが、この質問を行う人は前提として「広告はネガティブなものだ」という考えを持っているとのこと。このため、「なぜ広告に取り組んでいるのか?」という質問の意味は、「なぜあなたは悪いことにあえて取り組んでいるのか?」だとカウフマン氏は考えています。

しかし、カウフマン氏は広告それ自体はポジティブなものだと考えています。

この理由について説明するため、まず、カウフマン氏はインターネット上のコンテンツが収益化する方法を2つ挙げています。

ペイウォール:コンテンツを読むためにお金を支払う
広告:お金のかわりに広告に「注意」を向けることで支払う

ペイウォールも広告も、それぞれに良い点と悪い点があります。また媒体の種類によっても可否が異なり、例えば雑誌や本の出版は、「出版」自体に多大なコストが発生するため、広告モデルだけでは成立しません。またアナログラジオはペイウォールが法律で厳しく規制されました。

インターネットに関しては、カウフマン氏は以下2つの理由で広告の方が優れていると考えています。

1:摩擦を最小化する
広告によって収益化を行うインターネットの世界では、「タダでは読めないコンテンツ」がなく、ユーザーはウェブサイトからウェブサイトへ自由に移動することができます。ユーザーは「購読するウェブサイト」を特定する必要がなく、人から送られてきたURLを全て開いて内容を読むことが可能です。

2:逆進性がないこと
お金を支払って読むペイウォールは逆進性を発生させます。年間220ドル(約2万4000円)の購読費が必要な新聞は、裕福な人にとっては大した出費ではないものの、収入が少ない人の大きな負担になります。このような逆進性が発生しないのが広告モデルです。

摩擦の問題を解決した1つの方法として、ストリーミングサービスにおけるサブスクリプションモデルが挙げられます。ストリーミングサービスにおけるサブスクリプションはコレクション内のものを全て視聴できるため、摩擦が少ないのが特徴。一方で、ウェブサイトの中にもサブスクリプションモデルを採用するメディアは存在しますが、ウェブブラウジングの場合は、その性質上「誰もがあらゆるコンテンツを自由に読んで共有すること」で摩擦がなくなります。

また、摩擦の問題を解決しても、逆進性の問題が残ります。逆進性の問題はベーシックインカムが解決の糸口になるとカウフマン氏は考えていますが、すぐにベーシックインカムが実現する見込みはありません。

これらの理由から、少なくとも「ペイウォールよりは広告の方がよい」というのがカウフマン氏の意見。ただし、明らかに不快な広告が表示されることや、広告のせいでコンテンツの表示速度が落ちてしまう点、そして何よりもターゲティング広告を理由としたプライバシーに対する懸念は、現状の問題だと指摘しています。

広告は、その製品に全く興味がない人の前に表示されれば「 不快な もの」ですが、適切な人に適切に表示されれば、価値が高くなります。広告の価値を高めるには「強い興味を抱いている人」の前に広告を出すことが必要です。これを実現させるための仕組みが、これまではサードパーティーCookieを利用したターゲティング広告だったとカウフマン氏は説明しています。

サードパーティーCookieにより、企業はユーザーの閲覧履歴を収集できますが、このとき企業は「ユーザーが興味を持っているコンテンツ」を把握することにとどまらず、「ユーザーが訪れたウェブサイトの完全なURL」を知ることができます。カウフマン氏は、「ユーザーがアクセスしたウェブページの全体像」を企業が完全に構築できてしまうことが、プライバシーの問題点だと指摘しました。

プライバシーへの懸念から、近年は多くの企業がサードパーティーCookieに依存しない広告の仕組みを開発しようとしています。これはGoogleも同様です。そしてGoogleが従来のシステムで問題視しているのは、「ユーザーが訪れた完全なURLを広告主が把握可能なこと」です。このため、新しい広告システムを提案するプライバシーサンドボックスでは、「広告主に閲覧履歴を送信せずに、ターゲティング広告を可能にするAPIを開発すること」がアイデアの中心となりました。

例えば、プライバシーサンドボックスで提案されたAPIの1つであるTURTLEDOVEは、広告主がブラウザに対し「このユーザーは車に興味を持っている」と伝えておき、広告を配信するタイミングで「以前伝えたユーザーに広告を表示して」と指示を送るもの。ユーザーのデータはブラウザに保存される仕組みのため、広告主がユーザーの閲覧履歴といった情報にアクセスすることはできません。

カウフマン氏は「広告は、サイト間を自由に閲覧するための資金提供の方法です。私は、強力ではない、プライバシーに配慮したAPIに広告を移行する方法を理解し、支援しようとしています」とコメント。自分がやっていることは有害なものではないと主張しました。