「プライバシーへの懸念」は実在しないという「プライバシーのパラドックス」の真偽を調査した結果とは?

ネットサービスのユーザーは「プライバシーについて心配している」と表明するものの、実際にはわずかな金銭と引換に自分の個人情報を企業と共有しており、「プライバシーへの懸念」など存在しないのだという考えを「プライバシーのパラドックス」と呼びます。プライバシーのパラドックスは実在するのか?ということで、研究者が決済サービスAlipayのユーザーにアンケートを行った上で、実際の選択を観察するという調査を行いました。

The data privacy paradox and digital demand | VOX, CEPR Policy Portal
https://voxeu.org/article/data-privacy-paradox-and-digital-demand

オンラインサービスが一般化するにつれ、企業との「データ共有」のあり方が議論されるようになっています。デジタル広告におけるサードパーティーCookieの使用などもその一例で、直接的にユーザーと関係のない企業がユーザーデータを利用することから、近年は「ユーザーのプライバシーを侵害する」と規制されつつあります。

一方、「ユーザーは『プライバシーを懸念している』と表明しつつも、実際にはわずかな金銭と引換に自らの情報を提供することに抵抗がない」という指摘も存在します。このような傾向は過去の調査結果からも明らかになっており、「プライバシーのパラドックス」と呼ばれています。プライバシーのパラドックスは、「実際のころユーザーはプライバシーの心配などしていないのだ」という主張の論拠として用いられます。

プライバシーのパラドックスは本当に存在するのか、アリババグループによって創設された研究機関「Luohan Academy」の研究者らが調査を行いました。

アリババはAlipayという決済アプリを運営しており、研究者はAlipayユーザーに対して「プライバシーへの考え」についてアンケートを実施すると共に、実際にユーザーがAlipayプラットフォームで行ったデータ共有に関する選択を分析しました。なお、Alipayは中国に9億人以上のユーザーが存在し、決済システムだけでなく、Alipay内で機能する200万個以上のサードパーティーアプリを利用可能です。ユーザーがこれらアプリを利用するには事前に特定の個人情報の共有について同意する必要があり、その個人情報の内容はニックネームからIDナンバーまで、多岐にわたるとのこと。

2020年7月に研究チームがAlipayユーザーに対して「Alipay上のアプリとのデータ共有に対する好みや懸念についての12項目からなるアンケート」を実施したところ、1万4250人から回答が得られました。「Alipay上のアプリと個人情報を共有する時にデータ・プライバシーについて心配しますか?」と尋ねた質問に対しては。46%が「とても心配している」、39%が「心配している」と答え、「心配していない」と回答した人は15%でした。

その後、2019年7月から2020年7月にかけてユーザーの行動を観察したところ、「とても心配している」と答えたユーザーは平均として、利用した16.3個のアプリのうち11.3個でデータを共有したことが判明。「心配している」と答えたユーザーは15.5個のアプリのうち11.5個でデータを共有し、「心配していない」としたユーザーは14.3個のアプリのうち11.2個でデータ共有を行いました。

以下のグラフは左から「とても心配している」と答えたグループ、「心配している」と答えたグループ、「心配してない」と答えたグループ。青いグラフが初回訪問したアプリの数、オレンジがデータ共有を許可したアプリの数です。

「プライバシーに対する懸念が大きいユーザーはデータ共有の数も少なくなる」というのが一般的な予想ですが、調査の結果、いずれのグループもデータ共有を許可する割合がほぼ同じであることが示されました。これに対し研究者は「プライバシーのパラドックスを裏付ける結果になった」と述べています。

一方で、研究者は「ユーザーのプライバシーへの懸念」と「使用するアプリが広範かつ頻繁であること」という2点が正の相関にあることを指摘。デジタルサービスに対する需要が大きいユーザーほどデータ共有に関するプライバシーへの懸念が大きくなっており、この相関がプライバシーのパラドックスの説明に役立つという見解を示しました。

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