近年は人々の行動を追跡して、割り出した興味・関心に基づいて広告を表示させるターゲティング広告に対する風当たりが強くなってきています。しかし、新たな調査では、政府機関・非営利組織・企業・著名人などがFacebookを使ってワクチン接種を促進するためのマイクロターゲティング広告を実施していることが示されました。一体誰に対してどのような広告が表示されているのか、ワシントン・ポストが明かしています。
How targeted advertising is promoting coronavirus vaccinations – The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2021/08/24/vaccine-ad-targeting-covid/
マイクロターゲティングとは、選挙やマーケティングにおいて人々の個人情報を詳細に分析し、好みや行動をパターンを把握することで、ピンポイントで「ターゲットの関心が高そうな広告」を表示させる手法。人を政治思想や人種、宗教などで分けて、それぞれに異なるメッセージを表示させることが可能なため、「偽情報を広め、人々の不和を増大させる」という問題点が指摘されています。マイクロターゲティングが大きく問題となったのは、2016年のアメリカ大統領選でFacebook上にロシアのウェブサイトにリンクされたマイクロターゲティング広告が多数表示された時でした。
Googleは2019年にターゲティングを用いた政治広告を禁止しましたが、Facebookは依然としてこれらを有効にしています。Facebookはターゲティングでどのくらいまでオーディエンスの規模を絞れるのかという情報を明言していませんが、Facebookの広告ツールを使うと、オーディエンスのサイズを100人程度にまで絞れることが確認されているとのこと。

「人々を分裂させる」として民主党議員から批判されるマイクロターゲティングですが、実は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種を促進するために広く利用されていることが、ワシントン・ポストの調査で示されています。
ワシントン・ポストの分析によると、少なくとも35の政府機関・非営利組織・企業・著名人がワクチン接種を推奨する広告を表示させるためにお金を払っているとのこと。Facebookの広告データから、それぞれの広告は政党・文化的アイデンティティ・趣味といった特性に基くオーディエンスにリーチし、オーディエンスに最適化された「ワクチン接種を促すメッセージ」を表示していることが示されています。
アメリカでは2020年12月からワクチン接種がスタートしましたが、ワクチンに関する考え方が二極化しているため、2021年春ごろから摂取率が鈍化しました。ワクチン接種に関するマイクロターゲティング広告は2021年春から夏にかけて行われたものが多く、摂取率の鈍化を受けてスタートしたとみられています。
医療政策に関する調査・提言を行う慈善団体のカイザー・ファミリー財団も、このようなFacebook広告を利用した組織の1つ。カイザー・ファミリー財団のティナ・ホフ氏によると、財団は「アフリカ系アメリカの文化に興味を持つ人」「アフリカ系アメリカ人向けの雑誌『Ebony』や『Essence』に関心がある人」をターゲットとした動画広告シリーズを配信したとのこと。この動画広告は、アフリカ系アメリカ人の医師や看護師がCOVID-19に関する質問に答えていくというものでした。

また、健康に関連する複数の組織は、保守派がよく閲覧するウェブサイトのFacebookページに広告を表示させたことも明かしています。例えば「ワクチン接種を拒否することは完全に合理的な選択だ」とつづるブライトバートには、「自由を再び手にするための接種」というメッセージと共に子どもたちが学校に通う様子を映し出した広告が表示されたとのこと。
感染症と闘うためのパートナーシップ(PFID)のポリシーディレクターであるキャンディス・ディマティス氏は、ブライトバートでの広告が「保守派に合うように設計された」と述べています。「最もワクチン接種が必要とされる分野にメッセージを集中させました」とディマティス氏。このほか、別の組織は保守的な政治コンテンツを見る可能性が高いユーザーに対して、「愛国心」「日常を取り戻す」というテーマで作られた広告を表示させたことも判明しています。
上記のほか、カトリック教会に興味があるFacebookユーザーには「『ワクチン接種は道徳的選択です』と語る教皇の広告」が表示され、ボディービルや運動に興味があるFacebookユーザーには「アーノルド・シュワルツェネッガーがワクチン接種を受けていることを示す動画広告」が表示されていたとのこと。Facebookのターゲティングツールは人種・民族に基づいてターゲティングを行う機能を提供していませんが、多くの場合、その他の選択肢を使って公衆衛生当局は目的オーディエンスを選択することが可能だったとのこと。
ホフ氏は、マイクロターゲティング広告の強みが「コスト」と「効率」にあると述べています。20年前であれば、「若いアフリカ系アメリカ人」をターゲットにHIVについての広告を表示させるためには、わずか30秒の高額なCM枠を購入する必要があったとのこと。しかし現代では1つのCMに大金を費やすのではなく、さまざまなトピックで、さまざまな長さの質疑応答動画を作成し、オーディエンスごとにインターネットで配信するという方法が可能になりました。このため多数の批判にもかかわらず、引き続き政治的にマイクロターゲティング広告が利用されているというのが実情のようです。
なお、このようなマイクロターゲティング広告をしようにも、そもそもどういう層がリーチできる対象なのかすら分からないという場合もあるはず。そんな時こそGIGAZINEの記事広告を使えば、どういった年齢層・性別・職業などの属性のユーザーなのかということが手に取るようにわかるようになります。以下の広告媒体資料のパスワードを入手するにはここをクリック
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