すでにGoogleの新システム「FLoC」を利用して個人を識別しようとする試みが広告企業でスタートしている

サードパーティーCookieに代わる新しい広告の仕組みとしてGoogleが開発中の「FLoC」は、企業や組織から問題点が多く指摘されていますが、すでにテスト段階にあります。そして、テスト中のFLoCをユーザー識別子として利用しようとする試みが、早くもアドテク企業や広告会社によって行われているとDigidayが伝えています。

Privacy watchers see fears coming true with Google’s FLoC
https://digiday.com/marketing/as-ad-tech-firms-test-ways-to-connect-googles-floc-to-other-data-privacy-watchers-see-fears-coming-true/

サードパーティーCookieを利用する既存のデジタル広告は、企業がユーザー個人の行動を広範に追跡可能であるため、プライバシーの観点から問題が指摘されてきました。これを受けて広告企業のGoogleも、2020年に「ChromeにおけるサードパーティーCookieの利用を2年以内に廃止する」と発表。それ以来、サードパーティーCookieに代わる新しい広告の仕組みがプライバシーサンドボックスの中で議論されています。

このうち、2021年6月時点で実現可能性が高いと見られているのが、FLoCというAPIです。FLoCは、ユーザーを数千から数万人単位の集団(コホート)に分類し、「FLoC ID」と呼ばれる識別子を割り当て、その興味や関心を割り出します。ユーザー個人を識別・追跡せず、また情報はブラウザにとどまり第三者である企業の手に渡らないので、サードパーティーCookieを使った仕組みよりもプライバシーが向上しているとGoogleは主張しています。

しかし、FLoCは集団という単位であっても、ユーザー追跡を行っていることに変わりはありません。また、企業がFLoCを利用することで、個人レベルの追跡ができる可能性も、Firefoxの開発元であるMozillaにより指摘されています。

Googleの「FLoC」によってどのようにプライバシー侵害が起こるのか? | GIGAZINE.BIZ

懸念点とされていることの1つに、FLoCがブラウザベースで追跡を行う点があります。Cookieは「ユーザーが少なくともウェブサイトを一度訪れ、Cookieの使用を許可する」必要がありました。しかし、FLoCの場合、その必要すらなく、初めて訪れたウェブサイトにもユーザーのデータを渡します。電子フロンティア財団の技術スタッフであるBennett Cyphers氏は「これは前例のないことです」と述べています。

FLoCは2021年3月からChromeでテストが行われています。そして海外メディアのDigidayによると、既に複数の広告会社がFLoC IDを収集し、識別可能なデータと結び付けたり、人々が非公開にしている情報を明らかにするための分析に利用したりと、サードパーティーCookieを模倣してるとのこと。

デジタルマーケティング企業のNeustarもテスト中のFLoC IDを収集し、その活用方法を模索しています。Neustarはクライアントである広告主が有するメールアドレスなどの情報、つまりファーストパーティーの識別子とFLoC IDを関連させる予定とのこと。

またID5というデジタル広告企業は、IPアドレス、URL、タイムスタンプといった情報をユーザー識別のために利用していますが、FLoCがこの識別精度をブーストさせると予想しています。ID5は自社システムにまだFLoC IDを統合していないものの、FLoCの作成するコホートが数万人規模と「小規模」であることから、ユーザーの絞り込みに大いに役立つと考えているそうです。「安定した識別子を作成するためにFLoC IDが役立ちます」とID5のCEOであるMathieu Roche氏は述べています。

加えてアドテク企業GroupMのNishant Desai氏は、「FLoC IDが個人識別方法の解決策であることは、間違いなく真実です」と述べています。FLoCはIPアドレスとは違い、時間の経過とともに変化していきますが、いずれIPアドレスのように永続的な識別子として機能する可能性があると述べました。

そして、FLoCのリバースエンジニアリングも既に開始しています。リバースエンジニアリングはソフトウェアの動作を解析して、動作原理やソースコードを調査すること。たとえば広告企業のCafeMediaは、リバースエンジニアリングによってFLoCのデータを広告表示に利用するだけでなく、FLoCを無効にしている人に対して「コンテンツ連動型広告の表示」を通知できると説明しています。

リバースエンジニアリングでFLoC IDから個人を特定する方法は、記事作成時点では明らかではないとのこと。しかし、CafeMediaのDon Marti氏は、FLoCを有効にしているブラウザから得られた何百万ものデータポイントを分析したところ、特定のFLoC IDが他よりも特定キーワードと関連する傾向を発見しました。Marti氏は「あるFLoC IDを持つ人が金融とテクノロジーに興味があること」を割り出しており、証券会社がこのようなFLoCのデータで傾向が判明している人々からターゲットを絞って広告を表示していくことも可能だとしています。

一方で、全ての広告会社がFLoC IDに識別子としての可能性を見いだしているわけではなく、小規模パブリッシャーの広告を管理するMediavineは、今後も自社データをFLoCとリンクする予定はないと述べました。MediavineはFLoCよりも識別可能なファーストパーティーデータの可能性に目を向けているそうです。

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