ウェブサイトの解析ツールを提供する「Heap」の共同設立者であるラヴィ・パリク氏は2020年にHeapを退職し、2021年新たに開発者向けプラットフォーム「Airplane」を立ち上げました。パリク氏が2013年と2021年という2度のSaaS立ち上げを通して感じた変化や、共通する重要な点をまとめています。
I started SaaS companies in 2013 and 2021. Here’s how things have changed
https://blog.airplane.dev/i-started-a-saas-company-in-2013-and-2021-heres-how-its-changed/
パリク氏が「2013年と2021年のSaaSスタートアップの違い」として挙げているのは以下の7点。
◆1:これまで以上にSaaSが増加し、成長速度も速くなっている
Heapが起業した2013年において、100億ドル(約1兆1000億円)の価値を持つスタンド・アローンのSaaS企業はSalesforce・ServiceNow・ Workdayの3社しかありませんでした。一方、2021年9月において、100億ドル以上の価値を持つSaaSの公開会社は47社あり、うち6社は1000億ドル以上(約11兆円)の価値を持ちます。
またHeapは製品が動くようになった状態で、シード段階において評価上限額1200万ドル(約12億円)で200万ドル(約2億円)の出資を獲得しました。しかし、今日の状況では、同様の段階おいて評価上限額2500万ドル(約27億円)で500万ドル(5億5000万円)の資金を調達することは珍しくありません。さらに、バーチャルイベントのスタートアップであるHopinは2年で年間経常収益(ARR)が77.5億ドル(約8500億円)にまで到達しており、SaaSスタートアップの成長は加速しているとのこと。
◆2:SaaS企業が増加することで初期のけん引力を得ることが困難に
2013年にHeapがスタートした時、オンライン掲示板のHacker NewsにウェブサイトのURLを投稿するだけで1日3000人以上のアクセスがあった、とパリク氏は述べています。当時、Heapのウェブサイトにはランディングページとデモムービー、「アクセスをリクエストする」というフォームだけでしたが、200万ドルを調達したことを報じるTechCrunchの記事が投稿されると、500人以上が申し込みを行ったそうです。
一方、2021年においては、Hacker Newsや新製品共有のためのプラットフォーム・Product Huntで、毎日何十件とSaaSのリリースが発表されています。また1億ドル(約110億円)の資金を調達するSaaSも珍しくなく、数百万ドルの資金調達を伝える記事が人目を引くことはありません。

Heapが公開されて1年間のマーケティング活動は、Hacker NewsとTechCrunchで十分だったとのこと。しかし、AirplaneはHeapと状況が異なることから、早期に安定した流通を実現するためにより計画的なアプローチを取っているそうです。
◆3:製品を公開するまでの道筋
Heapは数カ月の開発のすえ、辛うじて動作する「必要最低限の機能だけを搭載した製品(MVP)」をリリースしました。しかし、2021年において、多くのスタートアップが製品を公開する前に投資家から資金を調達し、より多機能かつ洗練された製品設計のため他企業と契約を結んでいます。Airplaneの場合はこの中間の進路を取っており、「かなり洗練されているが、機能が限られたMVP」をもって製品を公開したとのこと。
どのようなアプローチがベストなのかは、正解がありません。ただ、製品に関するアイデアがどれだけ考え抜かれていても、「人に製品を使ってもらうこと」によって学べることは多くあります。このためより高度な製品を作るべく他企業と提携するよりも、早期にMVPを公開する方がよいとも考えられます。例えばHeapは当初、「開発者ツール」として作られていましたが、製品を人に使ってもらうことで、「製品マネージャーとの相性がいい」ことが判明しました。「早期に立ち上げて、市場のフィードバックを早くに得られたことはよかった点です」とパリク氏は語ります。

◆4:SaaSがビジネスモデルとして理解されている
2013年において、DropboxやGitHubはSaaS企業ではなく、Facebookのような「消費者向けのテクノロジー企業」として認識されていました。また、2021年ではSaaSビジネスがうまくいっているかを測るために使われる売上継続率(NRR)の価値を理解する投資家も、当時はほとんどいなかったとのこと。このため「成長率は大きいが解約率も高い企業」が高額の出資を受けることもあったそうです。加えて、「SaaSの経験が豊富な役員」は存在せず、BtoCのマーケティング担当副社長やエンジニアリング担当副社長の経歴を持つ人物が代わりとして選ばれていたとパリク氏は述べています。
2021年時点では、SaaSはより成熟した市場となり、SaaSへの出資に熟達した投資家や、役員、アドバイザーなどが多く存在します。このため、サービスを開始したばかりの規模の小さなSasSでも、将来的な予想が付きやすいという点はメリットとして挙げられています。
◆5:SaaSは顧客にも理解されている
2013年、スタートアップであれば「SaaSを利用する」ということに慣れてきていましたが、スタートアップ以外の伝統的な企業はSaaSに慣れていませんでした。このためパリク氏は潜在的顧客に対して「Heapはインストールする必要がない」「CDなどを送ることもない」ということを説明するのにも苦労したそうです。

今日、このような懸念はほとんどなくなりました。セキュリティ関連の質問を受けたり、ベンダー評価に時間をとられることはありますが、SaaSがどのように機能しどのような潜在的リスクがあるかということは、よく理解されているように感じるとパリク氏は述べています。
◆6:「成功するためには大企業に製品を売る必要がある」わけではなくなった
Salesforce、ServiceNow、WorkdayといったSaaSは、主に大企業向けに製品を販売することで収益を得ています。これまでSaaSの成功までの道のりは、このように「中小企業向けの製品から初めて、大企業向けに展開する」という「アップマーケット」のアプローチが一般的でした。Heapも小規模なスタートアップ向け製品から始め、一般的な方法にのっとりアップマーケットのアプローチを試みたそうです。
ただしHeapの場合、結果は「まちまち」だとパリク氏。Heapは最終的に中小企業と大企業を顧客に持つようになりましたが、アップマーケットのアプローチによって、それまでに獲得した口コミや個人向けサービスの顧客を制限することにもなったとのこと。「思い返すと、全てのタイプの顧客に対応するために、価格設定と市場投入をセグメント化することについて、十分な仕事をやっていませんでした」とパリク氏は振り返ります。Slackのようなサービスがサイドプロジェクト向け・大企業向けのサービス展開で成功していることを受けて、「もし2021年にHeapをリリースするなら、より賢明な成長アプローチを取るでしょう」とパリク氏は述べています。

◆7:重要なことに集中することが簡単になった
国をまたいだ給与の支払いはかつて複雑なものでしたが、DeelのようなSaaSが現れることによって国内での給与支払いと同じように簡単になりました。このように、「製品を作る」こと以外に企業が行わなければいけない業務は、他のSaaSで賄うことができるようになっています。パリク氏は8年前、Heapを運営する上で何時間、あるいは何日も弁護士とのやり取りに費やしていましたが、他社のSaaSを利用すればその必要はありません。このため、お金や時間を節約しつつ「本当に重要なこと」に時間や労力を割けるようになったと言えます。
「全体として、2013年とは状況が大きく変わりました。しかし、同じこともあります。製品を市場に適合させることは簡単でも理解しやすいものでもありません。そしてそれこそが、初期段階において唯一の『重要なこと』です」とパリク氏は締めくくっています。
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