さまざまなユーザー情報を利用しターゲティング広告を表示することは、「プライバシーの侵害」や「差別を助長する」という観点から問題が指摘されています。しかし、このようなターゲティング広告を「教会が苦難にある人に援助の手を届けるため」、言い換えると「信者を増やすため」に行っているという事例が報告されています。
Churches Target New Members, With Help From Big Data – WSJ
https://www.wsj.com/articles/churches-new-members-personal-online-data-analytics-gloo-11640310982
GoogleやFacebookを始めとするインターネットの広告企業は、オンラインにおけるユーザーの行動を広範に追跡し、属性・ブラウジング履歴・購入履歴といった情報を使ってユーザーの興味・関心に基づくターゲティング広告を表示してきました。このような行動はユーザーのプライバシーを侵害するものであり、不平等や差別を拡大するという問題も指摘されています。既存のターゲティング広告はCookieを利用してきたことから近年はCookieが規制対象となり、FacebookやGoogleは広告システムの変更を余儀なくされています。
このような背景から「オンラインの個人データを使って人に広告を表示する」ことはネガティブに受け取られがちですが、新たにWall Street Journalが報じた内容によると、Glooというアメリカの小さな会社は、アメリカ人の個人データとオンラインアクティビティを分析することで、「教会の援助の手」を届けているとのこと。

パンデミックによって苦境に立たされる人が多くいる一方で、感染拡大が懸念される状況を受けて教会に足を運ぶ人は年々減少しています。Glooのプラットフォームは人を集めたい教会にとって貴重な手段であり、すでにアメリカの全教会の10%にあたる3万以上の教会が登録を行っているとのこと。プラットフォームには「無料ユーザー」と「プレミアムユーザー」が存在し、平均的な料金は年間1500ドル(約17万円)となっています。
Glooのマーケティング資料によると、同社はデータ分析に基づいて、「結婚生活に支障をきたしている人」「うつ病や不安に苦しんでいる人」「麻薬中毒の傾向がある人」などの特徴を予測できるとのこと。Glooはサードパーティープロバイダーから提供される何千ものデータポイントと、教会から集めたデータを使って分析を行うと述べています。例えば、離婚したカップルには「クレジットカード利用の多さ」「旅行の予約」「健康への配慮のなさ」といった点に共通項があり、これらと同様のパターンを持つユーザーに対して、教会の広告を表示させるそうです。
またGlooは教会に対し、「コミュニティをより深く理解するためのデータ」を提供しています。具体的に言うと、Glooを利用するウエストサイド・ファミリー教会に対しては、「2021年9月において、教会から半径8km以内で離婚を検討しているカップルは全体の25%」「オピオイド中毒になりそうな人は26%」「うつ病や不安を抱える人は3%」といったレポートを出しています。

これに加え、Glooは「夫婦間の問題や大切な人との離別に苦しんでいる人」に教会へのアクセスを提案するウェブページを用意し、このウェブページをSNS広告やリスティング広告で宣伝しているとのこと。リスティング広告はユーザーが「悲しみに対処する方法」や「よい結婚をする方法」といったキーワードで検索を行ったときに表示されます。
同社が使用してきたユーザーの属性と財務状況に関わるデータは広告代理店のウォルター・トンプソンから得たもの。ウォルター・トンプソンは、許可を得たデータパートナーや、世論調査、自社のクライアントなど、さまざまなところからデータを集めていますが、この中にはアルコール依存症やオピオイド依存症などのデータは存在しないと説明しています。ただし、ウォルター・トンプソンはGlooとの契約を2021年12月をもって終了したとのこと。また、サードパーティーから提供されたデータを使ってどのようにメンタルヘルスや依存症に苦しむ人を特定したのかという点ついて、Glooは明かしていません。
もちろんGlooではなく、従来型のFacebook広告やInstagram広告を使ってターゲットに広告を表示させる教会も存在します。また、教会の中には特定の人をターゲットにするのではなく、より一般的な広告によって反応を得たと報告するところも。数々の教会のターゲティング活動を支援してきたデジタルマーケティング会社Waypoint CreativeのJason Ake氏は、「危機に直面している人は、教会のメッセージを受け入れる可能性が高いのです」と述べています。
実際に、バプテスト教会の1つがGlooを利用した際には、息子の死に苦しむ女性からウェブページを通して連絡があったそうです。この女性はフォームに連絡先を入力したため、教会の非営利パートナーであるMargo McClinton Stoglin氏は女性に電話し、祈りを捧げました。そしてMargo McClinton Stoglin氏は教会と非営利パートナーへの登録情報を女性に送ったとしています。
Margo McClinton Stoglin氏は、「教会のモットーの1つは、助けを求める人々に届くことです。登録が行われれば、私たちは彼らがメンバーになるのを助け、教会の一員となり洗礼を受けるための支援を行うことができます」と語りました。
なお、数多くの問題点が指摘される既存のバナー広告に代わって、信頼性のあるメディアを通じて潜在的ユーザーにアプローチできる記事広告のメリット・デメリットは、以下を読むとよくわかります。
記事広告の特長・目的・デメリット・メリットについて徹底的に解説 | GIGAZINE.BIZ
以下の記事広告媒体資料のパスワードを入手するにはここをクリック
分かりづらい広告・アドテク・マーケティング用語の解説ページはここから
