なぜ「プログラマティック広告の崩壊が迫っている」と指摘されるのか?

メディアに直接バナー広告を出稿するのではなく、GoogleやFacebookなどのプラットフォームを通し、複数のメディアを横断して「目的にマッチした広告枠」をオークション形式で自動的に購入する「プログラマティック広告」は、現代のデジタル広告の中心です。しかし、プログラマティック広告はもはや破綻しており、実際には人々が想像しているよりもパフォーマンスが低いという指摘が存在します。

The Imminent Collapse of Digital Advertising | by Scott Galloway | Oct, 2021 | Marker
https://marker.medium.com/the-imminent-collapse-of-digital-advertising-3ab4272be67c

デジタル広告は現代において広告の中心といえる存在です。2020年の広告費を調べた調査では、アメリカにおける広告費の48%がデジタル広告に対するものであり、テレビ広告がそれに次いで31.1%、新聞広告は5.9%で雑誌広告は3.9%と、大きく差が開く結果となりました。

そしてデジタル広告費のうち、89%はアルゴリズムが売買を行う「プログラマティック広告」に対して費やされ、残りのわずか11%が「非プログラマティック広告」に対するものです。

デジタル広告業界は、プラットフォーム・広告代理店・広告契約の取引所・その他仲介業者などから構成されます。プログラマティック広告を出稿したいブランドはまず代理店に広告出稿を依頼し、依頼を受けた代理店は年齢・性別・興味関心といった内容から広告ターゲットを絞りこみ、実際の広告配信を設定します。

広告配信にはさまざまな仲介業者が関わるものの、「広告がどこに配信されるのか」自体は自動化されており、広告アルゴリズムがさまざまなウェブサイトのうち「ターゲットが見ていると考えられる場所」に広告を配信していきます。デジタル広告のエコシステムは非常に内容が複雑かつ仲介業者が多いことから、不正行為をしやすい環境にあり、実際にいたるところで不正行為が行われているという実態が報告されています

以下の図では、広告費(画像左上)が、広告代理店・運用コンサルタント・DSP・データターゲティング検証機関・取引所・パブリッシャーと、実際に広告が掲載されるメディア以外の関係者へと流れていることが示されています。

デジタル広告において頻繁に報告される不正行為は「偽クリック」です。これは、ボットあるいはクリック稼ぎのために雇われた人々が画面をタップして「広告がユーザーに対して配信された」という偽の記録を作り出すというもの。World Federation of Advertisersの調査では、デジタル広告のクリックのうち88%が偽のクリックだと(PDFファイル)示されています。偽クリックを防ぐために不正検出システムを採用しているサービスやプラットフォームもありますが、不正検出システムが機能していないケースが報告されているほか、偽のトラフィックを大量購入してオーディエンスを増やしていたことが判明しているメディアも存在します

またプログラマティック広告は「広告を表示するターゲットを絞るため、コストパフォーマンスが高い」ということが前提であり、最大の売りです。しかし、近年の調査では、この前提が嘘であった可能性が指摘されています。

例えば、マサチューセッツ工科大学のキャサリン・タッカー教授の研究によると、性別といった基本的なターゲティングでさえ、その半分以上で広告が失敗するとのこと。またニールセンの分析では、世帯収入によってターゲティングした広告のうち、適切な世帯に配信された広告はわずか25%であると示されました。加えて、所在地ベースのターゲティングは65%が無駄であることや、Facebookのターゲティング能力が誇大表示だったことも、近年ではわかってきています。

さらに、これまでターゲティング広告はCookieによるユーザー追跡を中心に運用されてきましたが、近年Cookieは規制されつつあります。この影響を受けて、2018年の調査では、ユーザーの64%がCookieの追跡をブロックしていることが示されました。Google Chromeも2023年までにサードパーティーCookieを排除する意向であり、代替システムが提案されているものの、うまく機能するかどうかは未知数。つまり、ターゲティングを利用したプログラマティック広告は今後、その精度を落としてくことが考えられるわけです。

上記の他にもデジタル広告の不正行為は存在します。ドナルド・トランプ大統領のフォロワーの約40%はボットの可能性があると言われていることが示すように、SNSユーザーは偽のフォロワーを購入することが可能です。また、アプリストアのレビューや、アプリのダウンロードさえも「購入」することが可能。デジタル広告詐欺は2025年までに1500億ドル(約17兆円)規模のビジネスになるとみられており、デジタル犯罪を助長する可能性があることから、広告の透明性に関する業界標準の必要性が叫ばれています。

プログラマティック広告の仕組みが不安定・不透明であることは前述の通りであり、JPモルガン・チェース、Uber、eBayなどは既存のデジタル広告の予算を削減する方向に向かっています。また、既存のプログラマティック広告に頼らない、新たな手段を検討している企業も増加しているとのこと。このような手段の中には、社内でプログラマティック広告機能を構築することのほか、広告配信に仲介業者を挟まずメディアに直接出稿することでコスト削減が可能な記事広告なども含まれます。

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